スクールソーシャルワーカーのひとりごと

守秘義務に配慮して綴っています

担任のショック

Aさんは両親から虐待を受けて育ってきていました。

両親は自分たちの過ちに気づき、今は手を出すことは無いようです。

しかし、何年も虐待を受けて育ったお子さんですから、

両親が虐待をやめたからといって、すぐに良好な親子関係になれるはずはありません。

虐待で受けた体の傷は子どもの場合早く薄くなりますが、

心の傷は簡単には消えないのです。

友田医師は、虐待をうけたお子さんは脳が変化していることを証明しています。

学校でのAさんは、大人に対し壁がある、と言うのが先生たちの印象のようでした。

担任はその壁がを感じないのか、感じても無視しているのか、

Aさんを含め子どもたちに対し指導的な声掛けをしていることが多いようでした。

 

私とAさん二人でいた時に、委員会があるからと担任が迎えに来たことがありました。

Aさんは、

「さっきBさんとCさんが迎えに来たけど断りました。先生聞いてないんですか?」

と冷めた口調で言いました。担任は、

「決めることがあるんだよ、前に文句を言ったよね?あとで文句を言わないように。」

や、

「これからずっと参加しないってことなんだね。」

など、強い口調で言い捨てるようにして去っていきました。

Aさんはその直後、

「あとで、先生勘違いしてますよ、文句なんて言ってませんから、って目の前で笑ってやる。」

と言っていました。

Aさんと担任の関係が悪いのは明らかです。

それに、既にAさんから、自分は9割担任のせいで教室に入れない、と私に伝えてくれていました。

SSW(注1)として何ができるか考えたとき、担任の話を聴き労うこと、

そして、Aさんの状況や背景をお伝えし、理解してもらうことだと思いました。

担任の先生は、なぜあんなことを言ったのか話してくださり、

委員会だけは参加できていたのにそれもできなくなってショックでした、

と語ってくださいました。

先生たちのお仕事は、いろいろなことをできるようにすることだと思うのです。

できていたことができなくなるのは、

先生としてお辛いことなのだろうとお察ししました。

先生は、「こんな子初めてで・・・。」ともおっしゃっていました。

私が「私が関わるのはこんな感じの子ばっかですよ~。」と言うと、

ちょっと笑ってくださいました。

そして、Aさんは学ぶエネルギーがない状態であることを繰り返しお伝えしましたが、

私の説明が拙く、想像することが難しいようでした。

 

次にその学校へ行ったとき、Aさんが帰りの会に廊下から参加し、

「私は担任が嫌いだから教室に入れません。」

と挙手して発表した、といったことがあったと聞きました。

それを私に伝えてくれた先生は、

担任の事、教員同士の雰囲気、教室の雰囲気の変化を感じ取り、

心配だとおっしゃっていました。

教育的には、「嫌い」と人にはっきり言うことは、

その人を傷つける事になり良くないことだとは思います。

私も、聞いたすぐは心配が大きくなりました。

 

しかし、Aさん目線で考えたとき、思いが言えたことはパワーが出てきた証拠、

と捉えることができるように思えるのです。

 

担任の先生は、私が知る限り立て続けに2度も大きなショックを受けています。

担任を労いつつ、Aさんを支援していきたいと思っています。

 

注1スクールソーシャルワーカー

 

 

 

『自殺しちゃだめだよ』

「自殺しちゃだめだよ」

自殺願望のあるAさんにSC(注1)がかけた言葉です。

 

AさんはSCにいろんな話ができていました。

しかし、最近AさんはSCとの面談中に本をぺらぺらめくるなどし、

あまり話さなくなったそうです。

そして、とうとうSCとの面談をキャンセルするようになりました。

学校はその理由がわからないでいました。

 

ある日、私がAさんと話していると、

「自殺しちゃだめだよってSCに言われた~」

と話してくれました。

私はピンときました。

だからAさんはSCと話さなくなったんだ、と。

 

自殺願望のある人に「自殺しちゃダメ」は、

対人支援の専門職としては基本的に禁句です。

基本的に、としたのは、切るに切れないほどの太い信頼関係ができており、

なおかつ、クライエントさんがその言葉を受け入れてくれそうである

タイミングだと見極められているときは聞き入れてもらえるからです。

しかし、そういった状況の見極めは極めて困難ですから基本的には口にしないのです。

SCさんはきっと大丈夫という確信があったのかもしれませんが、

結果として、Aさんが話すことができる大人が一人減ってしまったことは事実でした。

 

そして、私は何と答えたか、

「自殺しちゃダメとは言わないけど~・・・

まあ、そのぐらいの気持ちってことなんだね~」

とちょっと軽い感じで答えておきました。

 

最近心理学系の講座を受けたとき、臨床心理士であり僧侶である講師が、

「人は、気持ちは死にたい、となるけれど、身体は死にたいにはならない、

心臓は今まで通り動き続ける、その他の内臓もそう、

だから、死にたい人はそのギャップが辛いのだ」

といった内容のことをおっしゃっていました。

以前、自殺ゲートキーパー養成講座を受けたときの講師は、

「死にたい、は、生きたい、の裏返し」

とおしゃっていましたが、この根拠が前者だ、と結びつき、

私の心に深く入っていきました。

「死にたい」というその人の、

「本当は生きたい」が強く信じられるようになりました。

そして、さらに安心して「死にたい」を聴けるようになりました。

 

Aさんの「死にたい」を聴き続けることで、

Aさんが「生き続ける」ことを支えていきたい思いでいます。

 

注1 SCはスクールカウンセラーです。

 

それぞれの捉え

 SSW(注1)の扱う案件は多岐ですが、

私が今のところ扱っている案件で一番多いのは登校渋りを含む不登校です。

不登校に至るということは、すでにいろいろな問題点が複雑に絡んでいたり、

その問題が根深かったりと、どうしようもなくなった状態になっている、

ということが多いように思うんです。

こうなってからSSWに相談してくださっても、

能力のある先生方を超えて、さらにすごいことなんてSSWはできないんです。

ですので、そうなる前に、お子さんの行動の変化を察知し、

SSWにちょっと声をかけてほしいとの思いで、

日々少しずつ先生方にご理解いただけるようお伝えさせていただいています。

それが功をなしてか、最近は拠点校の養護教諭がよく情報提供をしてくださいます。

その中で気になったAさんについて管理職に尋ねてみました。

先日、いじめアンケートに、

「いじめまではいかないけれど、クラスメートとの関係で困っている」

と書いてくださったとのことでした。

そして、Aさんの保護者様と偶然お会いすることができ、立ち話で保護者様の思いを伺うことができました。

保護者様は「クラスメートのことがきっかけでAは教室に入れなくなっている」という捉えのようでした。

管理職や担任の先生の捉えも確認しました。

管理職は「就学前から登校渋りはある、親子の分離が課題」

担任の先生は「登校時、保護者が校内についてきてしまうことで離れられなくなっている」

という捉えでした。

捉えがそれぞれ違っていました。

捉えが違うと、支援の方向性がそれぞれになってしまいます。

おそらく、保護者様は「担任に教室内の人間関係の改善」を望んでいると思われます。

つまり、学校がなんとかしてくれれば、という思いだとと思うんです。

そして、管理職と担任の先生は「保護者の行動の変容」を望んでいるように感じました。

つまり、保護者がなんとかするべき、という思いが強いように感じました。

私はどちらも当てはまると思います。

そして、今やるべきは、どちらでもなくその前の段階、

ラポール(信頼関係)を築くこと」だと見立てました。

本当ならこれを皆で見立てるために、ケース会議を行うのが良いと考えます。

ケース会議をすることで多面的にAさんを見立て、

現時点で自分は何ができるか、を明らかにしてもらえば、

「保護者が変わること」は今ではない、

「保護者と学校との信頼関係を築くのことがまずやるべきこと」

ということを共通認識できます。

ただ、先生方はお忙しいのでこの程度のことで開催をお願いするのはしづらいのが現状です。

 

そして、私は管理職に

・保護者は学校に不信感を持っている可能性があること

・まずは保護者様に安心してもらうこと

・繊細なお子さんはノンバーバルなものを感じやすいため、保護者様の不安を同じように感じている可能性があること。

を伝えさせていただきました。

そして、これを私から担任の先生に伝えることを管理職に了承していただき、

放課後、担任の先生とお話しさせていただきました。

担任の先生は、いじめアンケートの件は相手の子を指導したこと、

そして、その後も見守ってくださり、以前より良い関係に見えること、

を教えてくださいました。

私は上記を保護者様に伝えていただくことで保護者様が安心できること、

そうすると、Aさんも保護者様の安心が伝わり安心できることをお伝えしました。

こういった話をする中で、担任の先生は保護者様と自分との関係性に着目していただけたようでした。

良い変化が起こると良いなと期待しています。

 

SSWはよく「繋ぐ人」と言われたりします。

このように、捉えがねじれの関係で繋がっていない関係を繋いでいく、

こういったこともSSWの仕事だと思っています。

そして、欲を言えば、こういったことをできる人材が常に学校にいられると良いのに、

と思ってしまいます。

余談ですが、私は拠点校に週に1回しか出勤していないのでその後のことが気になって仕方ないときがあります。

 

注1 SSWはスクールソーシャルワーカーの略です。