スクールソーシャルワーカーのひとりごと

守秘義務に配慮して綴っています

被虐待児の『普通』

「世の中に悪いお母さんなんているの?」

これは、身体的かつ心理的虐待を受けている子どもの言葉です。

その前の会話は私についてこの子が質問してくれたことから始まっていました。

子「ヒロさんって先生じゃないのに学校にいるけど何する人なの?」

私「私はスクールソーシャルワーカー(以下SSW)なの。子どもの味方なんだよ。学校やお家で困ってる子いないかな~?って学校の中を歩き回っているんだよね~。世の中、悪い親もいるしね~。」

これに対するこの子の言葉が、先に出した言葉なのです。

 

この子はステップファミリーで暮らし、血がつながっているのは大好きな母親だけ。

その母親は夫である父親には逆らえないようで、しつけを超えた行いをスルーしているようでした。

この子が身体的暴力や言葉の暴力を受けることが、この家族の『普通』となってしまっていたようです。

そんな中に育ったこの子本人もそれが日常となってしまっているようで、自分が被虐待児であることの自覚がないようでした。

私はSSWとしてこの子に何ができるのか、悶々とする日々を送っていたある日、非行で少年鑑別所に入った事を知りました。

私は思わず少年鑑別所に面会できないかの問い合わせをしていました。

そして、結果、施設入所となりました。

 

きっとこの子は納得いかず悶々としているのだろうな、と察しています。

『普通』と思っていた自分の日常を自分の意思とは関係なく手放さなくてはならなくなった、

『普通』と思っていた家族や大好きな母親と別れて暮らさなければならなくなったのだから。

しかし、家族と離れることによって自分の置かれていた状況に気づくチャンスを得ることができたことは、この先のこの子にとって良かったのではないかと思っています。

 

子どもは、今いる自分の家庭が『普通』だと思ってしまうものだと思います。

朝食は毎日食べない家庭、

夜保護者が家にいない家庭、

失敗すると暴力を受ける家庭、または暴言を浴びせられる家庭、

両親が子どもの前で夫婦喧嘩をすることが日常的にある家庭、

家の中にゴミを含めたモノが散乱している家庭、などなど、

物心つかない頃からこういった家庭で暮らしていると、

子どもはこれが『普通』と思ってしまう、しかし、潜在的にはストレスとなり、

心も脳も傷つき、非行や問題行動等として表われてくる、

そんなふうに思っています。

 

『普通』一見みんな同じことを思っていそうな言葉。

実は、『普通』はみんな一緒ではない、人それぞれの『普通』がある、

改めて『普通』を考えさせられました。

 

私はその子に何もできなかった。

今私ができることは、その子のことを思い続けること、どうぞ、幸せになって、と。