スクールソーシャルワーカーのひとりごと

守秘義務に配慮して綴っています

選択性緘黙の子の声を聞けた!

 

 

『子どもに選ばれる大人となる』

私がスクールソーシャルワーカー(以下SSW)として活動する中で大事にしていることの一つに、『子どもに選ばれる大人となる』があります。

子どもは、大人のように出会う人を選ぶことができない環境にいます。

親はもちろん、親戚の大人たち、近所の大人たち、園や学校の先生たちなど、子どもが自ら選んだわけではない大人たちと出会うのが常なのです。

日本で生まれた子どもはたちのほとんどは、小さな大変さはあるにしてもほとんどが幸せな環境にいることと思います。

しかし、ほんの一握りではあるけれど、いろいろな大変さのある家庭環境や学校環境の中にいるお子さんもいます。

そんなお子さんに学校で出会い、選ばれる大人となることで、他人でも頼れる人はいるんだよ、を伝えていきたい思いがあります。

まずは観察

その日の校内巡視で最近見ていなかったクラスに入ると、机上に物が散乱し、教科書やノートも開いていないAさんを発見しました。

しばらくクラス全体も含めて観察していましたが、Aさんの行動が変わる様子はなく、それを担任から注意する様子もありませんでした。

そして、Aさんにかかわったときにどう反応するのかを見るために話しかけてみました。

「机の上片付けていい?」

「これ、しまっていい?」

いろいろきいても最初は反応がありませんでした。

だんだん小さくうなずいたり小さく首を横に振ったりするようになり、それを見極めてコミュニケーションをとりました。

机の上の整頓を終え、学習に向かわせてみました。

鉛筆を手に持つことはしたけれど書き始めません。

できないのかな?と思い、コロナ渦ではあるけれど、

「一緒に書く?」

ときくとうなずいたので、手を添えて書き始めました。

最初は私任せな筆運びではありましたが、やっていくうちに自ら運筆しようと力を込めていることが手から伝わってきました。

このやり取りの間、Aさんの声は一度も聞くことがありませんでした。

Aさんは選択性緘黙

Aさんについて、詳しくは先生たちから聞いてはいませんでした。

放課後担任の先生に尋ねると、「選択性緘黙」のお子さんだということでした。

こういったお子さんをどう指導していくか、担任の先生は悩ましく、保護者さんに学校での対応の仕方を医師にきいてきてほしい、と伝えてあるようなんですが、返事はまだとのことでした。

1週間後の勤務の時、Aさんが気になり見に行くと、Aさんは私のことを覚えてくれていたようでした。

また書く場面があり、鉛筆を渡すと、ぐうの手で握って全然違うところに落書きのように書きました。

鉛筆の持ち方や書く場所を伝えると、鉛筆を私の方に向けて、

「どうやって持つの?」

と、かすれるようなかすかな声にもならない声で私にきいてくれたのでした。

Aさんに頼ってもらえた!

Aさんとの直接のやり取りはこれが2回目でした。

2回目で声が聞けるなんて、しかも能動的な言葉が聞けるなんて思いもしなかったのでものすごく嬉しかったのですが、その嬉しさは隠して冷静な態度で接していました。

私のことを、この人にきいたら教えてもらえる、そう感じているから私を頼ってきいてくれたのだと思います。

そしてその日の下校時、偶然AさんとAさんのお母さんに会いました。

挨拶をすると、どうももめているようでした。

Aさんはトイレに行きたい、お母さんは一人で行ってほしい、Aさんはお母さんについてきてほしい、どうしよう、となっていたようです。

「私と一緒に行くか?」

とAさんに提案すると、納得して私と手をつないでトイレに行きました。

この日、二度もAさんにたよってもらえ、心の底から幸福感でいっぱいです。

嬉しすぎたので、これを管理職に伝えると、

「私もヒロさんの真似してAさんと仲良くなろ!」

とおっしゃってくれました。

このことでさらに幸福感は増し、SSWとしてますます精進するぞ!という気持ちになれました。